あと数分で、彼は子供という枠を超え大人としての年齢を迎える。
「イルカ先生」
 振り返った先に、まばゆい太陽の色をした、今まさに大人にろうとしている子供がいる。子供、と己が言い張るのは、まだ彼にはそうあってもらいたいという郷愁がある所為だ。けれどその他にも理由はある。
「そろそろ日付が変わるってば」
「…そうだな。帰還したばかりなのか?」
 埃っぽいぞ、と少しくすんだ髪を払ってやると、その時は子供の頃と変わらず、くすぐったそうな幼い笑みを見せるのだ。
 なのにふとこちらを見つめる目が、子供には備わらない欲と情を潜ませた光を灯す。表には出さず、ぞくりとした首筋には眼を瞑った。
「今日中に帰って来れるように頑張ったんだ。だから先生、日付が明日になったら、お祝いにプレゼント貰いたいんだ」
「はは、なんだ、もう二十歳になるってのに子供みたいなこと言うんだな」
 ずっと、弟のように思ってきた。彼の背負ったものを思えばくるおしい気持ちに苛まれ、生い立ちを思えば胸が痛み、だがそれ以上に誇らしい。孤独だった子供は英雄になって、里の皆から認められ慕われる存在になった。
 目線はとうに自分より高くなった。おりに触れる、手のひらの大きさも随分と。なのにまだ子供っぽい姿を、甘えを自分に見せてくれるのかと思えば心がやわらかく開いて、何が欲しいんだ、と無防備に彼の前に曝してしまった。彼はもう、子供ではなくなるのに。
「わかってるんだろ、イルカ先生。俺が何が欲しいか」
 はく、と息を吐くつもりが逆に吸い込んで詰まらせてしまった。迂闊にも訊ねてしまったのだから、もう気付かないふりをしていられない。知らなかったことにはできない。
「ナルト…、」
「先生がすごく悩んでるのはわかってる。でもずっと俺の傍に居てくれる可能性があるんだったら、諦めないってばよ」
 にかっと笑う精悍な顔が随分男らしくなっていることに、いつまで眼を瞑っていられただろう。どきどきと高鳴ってしまう胸の音に聞こえないふりをしたのも、どれだけの時が過ぎただろう。
 相対した彼の、その場所からこちらに届くのかと伸びた腕の長さに驚いたのも、随分と前だ。まわされた手のひらが背中を支える、その大きさにまたとくとくと鼓動が熱を上げる。引き寄せられ、腕の中に囲われ厚くなった身体に抱きとめられれば更に熱くなった。
「イルカ先生が欲しい」
 頭のすぐ上に落ちる言葉まで熱くて、甘くて。それを拾い上げる耳の奥から震えが伝播する。
 こんなふうに全身を甘く震わせられたら、もう白旗を揚げることしかできないではないか。
「…………大事にしろよ。俺も大事にするから」
「…!」
 ぎゅ、と抱きしめ返したらそれ以上の力でぎゅうぎゅう締め上げられて内臓が口から出るのではないかと思った。それについては説教をしたが、あまりに嬉しそうに嘘じゃないよなほんとにくれるんだよなと頻りに確認してくるので笑いが漏れる。
 かつて守るべき子供だった彼の腕の中で、夜を越えた。
 今度は大人になった彼の腕の中で、守り守られる存在として、傍に在ることを贈りものとし、心からの言葉を音に乗せる。
「誕生日、おめでとう」


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まさかまさかかいさんのナルイルを拝読出来る日がくるなんて…!かいさんありがとうございます!誕生日おめでとう私…!!
ナルトが子供の頃から成長するまで、長い時間を共に過ごしてきた二人だからこその思いの通じ合いが心に染み入ります。
きっとこれからもお互いに、今度は恋人として大切にしあって生きていくんだろうなぁ…(*´艸`*)

かいさん、誕生日プレゼント本当にありがとうございました…!!