サイト開設のお祝いに、如月さん(HP:如月~kisaragi~)が小説をくださいました。
かわいい…!二人とも本当にかわいい…!!二人一緒にかいぐりかいぐりしたい…!!
鳥大好きのワタクシ息も絶え絶えです…如月さん、ありがとうございました!

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イルカ先生を探して受付にヒョイと顔を出すと、人混みの向こうの低い位置に、報告書でも確認しているのかぴょこぴょこと跳ねる黒い尻尾が見えた。
やっぱり午後のこの時間は受付にいた。
付き合い始めたばかりの恋人の、可愛らしい黒髪尻尾を見付けて思わず口元が緩む。
だがなんだろう、尻尾具合がどことなく違う気がする。何がと問われると上手く言えないんだけど……それよりも。

「ねぇ、なんでみんなイルカ先生に群がってキャーキャー言ってんのよ」

ちょうど列の後方に並んでいたゲンマを引っ捕まえて尋ねた。
だって普段は同僚か子供たちにしか囲まれてないイルカ先生が、今日はくのいち共に囲まれてるんだけど! 野郎ですらイルカ先生と肩を組んでたりするのもイラッとくるのに!

「ん? あぁ、カカっさんですか。なんでもアイツ、生徒の術に巻き込まれて変化が中途半端に残っちまったみたいで。え~っと、オカメインコだったかな? それが可愛いって騒がれてるんっすよ」

可愛い……だと?!
俺の知らない可愛いイルカ先生があってはならん! と慌てて人混みをかき分けると。
片手で頬を隠すように覆い、俯きながら報告書をチェックしていたイルカ先生が、ぱっと顔を上げた。

「あ、カカシさん」
「………っっっっ!!!」

顔を上げた拍子に手が外れてしまったのか、イルカ先生の隠されていた両頬は――

なんとなんと、綺麗な真ん丸のオレンジ色に染まっていた。

「何、それ……イルカ先生……」

そう言ったっきり絶句してしまった俺に、呆れられたと思ったのかイルカ先生は早口に説明を始めた。

「あのこれは生徒たちが動物に変化する練習をしてですね、悪戯で俺にかけようとした子がいて、そこに委員長が俺に術返しをかけてくれようとして! 俺も防御しようとした上に、委員長が間違って相手の子に術返しをかけたもんだから、そっちも止めようとしたらこんがらがっちゃってですね!」

なるほど、それでこんな可愛い姿になったのか。
イルカ先生の目のすぐ下の頬骨の部分は、二個のオレンジがくっきりと写されたかのように、大きく真ん丸に染まっていた。
よくよく見ればいつも柴犬の尻尾のようにふさふさしている髪も、インコのとさかみたいに後ろに向かって一塊になびいている。
先ほど感じた違和感はこれだったんだ。それにしても……

「……可愛すぎる」

思わず零れた言葉に、イルカ先生が首を傾げた。
そんな姿までインコのようで、周りのくのいちからまたクスクス笑いと共に「やだカワイイ」という声が上がった。
これは非常に宜しくない状況だ。
今のところ「やだカワイイ」で済んでいるが、人は一旦目に留めた可愛らしさは、次回からも目に付きやすくなるものなのだ。それが何かの拍子に「あれ、この気持ちは何だろう」から、いずれ「イルカ先生を独り占めしたい」になりかねない。
――この俺のように。

「ねぇ、誰かマスク持ってない?」

俺が誰ともなく訊ねると、イルカ先生の隣に座っていたコテツが「普通の白いのでいいなら、受付の救急箱にありますよ」と使い捨てタイプのマスクを出してきた。

「イルカ先生、それで隠れるんじゃない? こんな状態じゃ業務に差し支えるでしょ」

するとイルカ先生が「ご迷惑おかけして申し訳ありません!」と恐縮しながら、コテツからマスクを受け取って顔に付けた。
イルカ先生は、俺に停滞した受付業務のことを責められたと勘違いしてしまったみたいだ。
違う、そうじゃなくて……!
なんで俺はこんな言い方しか出来ないのかと、焦って言い直そうとしたのだが。

「……ダメ。それじゃダメでしょ。イルカ先生、ちょっと」

俺はイルカ先生の手を引いて立ち上がらせた。
ダメだ。何の解決にもなっていない。
マスクではちゃんと頬が全部隠れないのだ。上端からオレンジが日の出のように覗いてしまっている。
これでは太陽のようなイルカ先生のキャラを際立たせるだけだ。
あったかいお日さまみたいなイルカ先生に、ぬくもりを分けてほしいと群がる輩を増やしてどうする。俺としたことが、とんでもない悪手を打ってしまった。
コテツに「ちょっとこの人借りるね」と声をかけると、返事も待たずに先生の手を引っ張って受付所の外へと連れ出す。
「あの、カカシさん?」と戸惑う先生をぐいぐい引いて人気のない第二資料室に入ると、鍵をかけてから俺はベストを脱いだ。

「え……っと、どうしたんですカカシさ……わあっ?!」

慌てるイルカ先生を尻目に俺は自分のアンダーの裾に手をかけ、一息に引き上げて脱いだ。
それから先生のマスクを外し、ベストもファスナーを下げて脱がせてから、アンダーもバンザイの格好ですぽんと脱がせる。
するとあわあわとばたつくイルカ先生の顔が真っ赤になって頬のオレンジが一層濃さを増し、ますます可愛らしいオカメインコになってしまった。両手を上げたり下げたり、裸の胸の前で交差させては下ろしたりとなんだかすごく動揺してるが、イルカ先生は恥ずかしがり屋なんだろうか。頼むからこれ以上可愛い姿を見せないでほしいのに。
とうとうイルカ先生はぎゅうっと目を瞑ると、両手で顔を覆ってしまった。

「わあっ、わあっ、カカシさんダメ! 俺、初めてがこんなところじゃイヤですっ」
「初めて?」

何の初めてだろうか。
初めてのインコにはもうなってるし……あ、初めて俺の素顔を見るのがこんな所じゃイヤってこと?
色々と疑問は浮かぶが、とりあえず先生に俺が脱いだアンダーを手渡した。

「はい、これ着て」
「わあっ……、はい? これ……着て?」

ようやく目を開けたイルカ先生がぼさっと突っ立てるので、頭からアンダーをすぽんと被せた。
それから俺仕様の薄く伸びるネック部分を摘まんで引き上げ、目のすぐ下にぴったりと合わせる。これでは先生の可愛い鼻傷が隠れてしまうが、背に腹は代えられない。
子供たちの術ならそう長く保たないだろうから、オカメインコの頬もとさかも直ぐに消えるはずだ。
イルカ先生はまだ状況が把握できてないのか、俺のことを至近距離でじいっと見つめている。

「俺が着てた服で悪いんだけど、これならその頬も隠れるから」

そう説明すると、ぱちぱちと瞬きをしてから頷いた。

「それ特殊な材質だから普通に話せるし、息も苦しくないでしょ?」
「あ、はい、ありがとうございます……?」

凛々しい眉のすぐ上に額宛、目のすぐ下からは布で覆われた俺と同じ姿になったのに、何故かイルカ先生は胡散臭く見えない。

――俺と同じ姿。

イルカ先生の頬を隠すことに夢中になっていたけど、これはその……イチャパラでいう、いわゆる『彼シャツ』という状態ではないか!!!
思わず顔中が緩みそうになって、はたと気付いた。
今の俺の顔はフルオープンなのだ。慌てて先ほどイルカ先生から取り上げたマスクを装着したが、ここでもう一つの衝撃的な事実に思い当たる。このマスクは短時間ではあるが、ついさっきまでイルカ先生の口を覆ってた訳で。
これはその……イチャパラでいう、いわゆる『間接キッス』になるのか!!!
ちょっとだけ、ほんの先っちょだけ、と心の中で自分に言い聞かせながら、そうっと唇を突き出してみた。

「カカシさん、何か怒ってます……?」

しまった。
間接キッスを味わっていたら、尖らせた唇が不満と取られたらしい。
イルカ先生が不安げに俺のことを窺っている。

「ううん違う違う、怒ってなんてないよ! ただちょっと、あれがあれなだけで!」
「それならいいんですけど……」

そう言うとイルカ先生が俺に身体を擦り寄せてきた。
もう一度言う。
イルカ先生が、俺に、身体を擦り寄せて、きた。

えっ、ちょっと待って何これどうしたのなんでなんでイルカ先生こんな積極的になるなんて密室効果それとも

「す、すみません、なんだかこうしたくて堪らなくて……すみません!」

と、イルカ先生が困りながらも、俺の頬にしきりに顔をすりすりと擦り付けてくる。
そこでふと思い当たった。
これはうちの忍犬たちが撫でてほしい時によくやる仕草に似ている。
試しに頭を撫でてみると、ぐいぐいと押し付けてもっともっとと強請ってきた。
ああ、見た目だけじゃなくて、たぶん中身も多少術の影響があるのね。
オカメインコは甘えたがりな性質の生き物なのか、普段のイルカ先生には有り得ないほどの密着ぶりだ。これはオカメインコを選んでくれた生徒君に最大限の感謝だな。
俺は恋人に触れるというよりも、愛玩動物を可愛がるような気持ちで、無心にイルカ先生の頭をよしよしと撫で続けた。
するとようやく気が済んだのか、イルカ先生がすいと身体を離した。

「あの、俺もう戻らないと……」
「あ、うん、そうね」

今さらながらこのチャンスに抱きしめれば良かったと後悔を噛み締めつつ、余裕の笑みを返す。
自分がまだ上半身裸にマスクという怪しい姿だったことに気付き、「じゃあイルカ先生の貸してね」とアンダーを頭から被り、マスクを直した。この時は自分も彼シャツ状態なことにふわふわと浮かれていたので、イルカ先生の「またダメか……」という小さな呟きを聞き逃してしまった。



二人で並んで受付に戻ると、その場が急にざわめきたった。
ふふん、残念でした~♪
イルカ先生の可愛いオカメインコタイムは終了ですぅ。
鼻唄の一つも歌いたい気分で、俺はソファーにどかりと座る。
受付の椅子には、俺のアンダーを着て俺みたいな格好をしたイルカ先生。
周りの奴等が何か物言いたげに俺とイルカ先生とを交互に見るが、俺は知らんぷりして愛読書を開いた。
先ほどまでイルカ先生に群がってキャーキャー言ってたくのいちたちも、今はそこここで固まってひそひそと耳打ちし合っている。
そうそう、彼シャツのイルカ先生も可愛いでしょ?
照れているのか、耳と僅かに露わになった目元とを赤く染めてる先生をこっそり盗み見ながら、マスクの下でにんまりとした。
その可愛らしさをみんなに自慢して回りたい気持ちをぐっとこらえ、イルカ先生の終業時間までページをめくり続ける。
このマスクは間接キッス記念に永久保存しておこうと思いながら。



後日、俺はとんでもない噂を耳にした。

『オカメインコの姿で受付に座ってる不届きな中忍に、写輪眼のカカシが制裁を下した(しかも下半身的な制裁だったらしい)』

この噂をニヤニヤと楊枝を揺らしながら伝えてきたゲンマには、感謝の水遁を浴びせておいた。
その下半身的な制裁の部分を、間違っても不用意に想像しないようにと警告も添えて。
ちょうど昼休みのイルカ先生を捕まえて裏庭に引っ張っていくと、「ああ、聞いちゃいました?」なんてのんびりとしている。

「イルカ先生はあんな噂されていいの?! しかも先生が無理やり手籠めにされたみたいな! それに……だって俺たちまだ間接キッスしかしてないのにっ」
「間接キッス?」

イルカ先生が怪訝な顔をしたので、先生は気付いてなかったのかと慌てて咳払いをして誤魔化した。
するとイルカ先生が、まぁまぁと興奮した俺を笑顔でいなす。

「しょせん忍も人ですからね。真実よりも面白そうな噂を喜ぶもんですよ。本当に信じてる奴なんて居ませんって」

それよりも……
と身体を寄せたイルカ先生が声を潜めた。

「あの噂、真実にしませんか? ……あ、できれば俺は優しい手籠めを希望しますけど」



え~っと、うん。訂正する。
俺の可愛いイルカ先生は、可愛いだけじゃなかったみたい。
もちろんベッドの中では可愛い鳴き声を聴かせてくれたけどね。





【完】